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新宿コマ劇場・新宿東宝会館跡地開発について(個人的な意見) [まちづくり]

先だって、新宿東宝会館の8Fにある歌舞伎町クラブハイツから「閉館お知らせ」というリリースを手にした。

1973年のオープン以来、多くの皆様にご愛顧いただいてまいりました。しかしながら、新宿東宝会館の閉館に伴いまして、2月27日(金)をもちまして閉館することとなりました。36年に亘り皆様にご愛顧いただき、心よりお礼申し上げますと共に、急なお知らせとなりましたことを心からお詫び申し上げます。

なお、限られた時間ではありますが、今までの感謝の気持ちを込めましてイベントを予定しております。詳細につきましては、決まり次第お知らせいたします。従業員一同、皆様のご来店を心よりお待ち申し上げております。

東京テアトルグループ 歌舞伎町クラブハイツ

東宝株式会社より、新宿コマ劇場・新宿東宝会館の閉館の報道がなされたのが昨年の5月(関連記事)、当初からテナント退去の問題は伝えられてきたが、そのテナントもそれを出す東宝もともに歌舞伎町の事業者であることからどちらかに偏った書き方はできないこともあってこの問題は触れてはこなかった。その中でも、今回閉館の決まった歌舞伎町クラブハイツは歌舞伎町唯一のグランドキャバレーで、その内装も古き良き昭和の香りを残す素晴らしい店だった。かつて一世を風靡したこのグランドキャバレーも最近ではイベントや撮影への貸し出しを行うなど本来の形から少しずつ離れた営業スタイルへと変化してきていたように思う。歌舞伎町のある一面としての代表的な場所の閉館ということもあり、これはこれで残念なことではあるが、今時ありえない天井高といいい豪華なシャンデリアといい、そしてこの広さで400~500人収容キャパという贅沢というか、構造的不効率はやはり否めなかったのかもしれない。

DSC04922.jpg新宿クラブハイツの店内、倖田來未さんの「キューティハニー」のプロモーション映像では全体的に赤っぽいハイツがブルーの照明に映えていたのが印象的だった。クリエイターたちが好んでこの場所を使いたがったのは、今時に作られたものではない昭和レトロの古き良き空気がこのハコに存在したからだろう。

東宝株式会社と、この新宿東宝会館・新宿コマ劇場のテナントの交渉はまだ3店舗ほど残っているようだが粛々と進んでいる。さて、本題に入る。この歌舞伎町映画館街周辺の再開発について、あくまで東宝単独の再開発になるのか、あるいはその他の企業や用地と絡めた共同の再開発になるのか改めてその可能性についてと、あくまで自分としての意志を示しておきたい。

歌舞伎町シネシティ広場を囲む映画興行各社は新宿コマ劇場・新宿東宝会館を持つ東宝と、新宿TOKYU MILANOの東急レクリエーション、第一・第二東亜会館を持つ東亜興業、そしてヒューマックスパビリオンと地球会館を持つヒューマックスの四社がある。これを歌舞伎町では通称“四葉会”と呼んできた。自分がこの四葉会の共同再開発に向けて動き出したという話を耳にしたのは平成12年ごろのことだった。その後、2002年新宿区長に中山弘子氏(現区長・2期目)が就任し、四葉会の再開発の意向を受けてこれを軸とした歌舞伎町の繁華街再生プラン、いわゆる“歌舞伎町ルネッサンス”という活動がスタートした。当時の四葉会の各代表者は意欲的で、あたかもこの壮大なプロジェクトを難なく進めていくかに見えたのだが、個別の事情は若干異なっていたし財布事情も違う。表面的には「皆さんで力を合わせて」とは言いながらも、東亜興業・ヒューマックス側としては「東宝さん東急さんが動くのであれば、、」的な温度、東宝はその申し分ない企業体力からなるべく早くという意向とそれぞれかなり温度差もあったのは事実。過去のいきさつについてはこのブログでも書いてきたことなので重複は避けるが、重要なのは「東宝さん東急さんが動くのであれば・・」という東宝と東急のことについてここでクローズアップをする。

言うまでもなく、昨年5月報道発表のあったように東宝は「単独」で新宿東宝会館・新宿コマ劇場跡地の再開発にこれから取り組む姿勢を明確にしている。つまり、昨年5月のこの発表をもって、当初の目論見であった劇場街の共同再開発による歌舞伎町再生のプランは事実上頓挫した、と言える。もちろん、歌舞伎町再生における課題は劇場街再生だけではなく治安・犯罪組織排除問題等他にもあるので、頓挫といってもそのある一面に過ぎないといえばそうなのだが、とはいえ最重要の軸であったことは間違いない。それまで四社は、“YSP企画”(YSPはヤングスポットプロジェクトの略、ヤングスポットとはシネシティ広場の旧称)という共同開発会社を設立し、協議を重ねてはきたのが、それもこの東宝の単独再開発の意向を受けて事実上その使命を失った。だが、実は東宝は本当に決意して単独再開発に進んだのかというとやや疑問が残る。「いやぁ・・なにかしら反応があると思ってたんですが。」あくまでアンオフィシャルな場での話ではあるが、つまり東宝的には単独再開発をしますよ宣言はひとつのボールを投げたようなニュアンスもあって、四葉会の他の三社から何かしらリアクションを期待した節があるのだ。もちろん、発表までした以上、何のリアクションもなければ当然東宝はこの跡地2,000坪の再開発を単独でやることになるわけだし、その覚悟をもって前に進んでいる。そして、解体工事等その準備にすでに着手している。(参照:解体工事プランについて)そして、なぜこうした行動に移らざるを得なかったのかを考えたとき、やはり重要なのが「東宝さん東急さんが動くのであれば・・」、つまり新宿区所有のシネシティ広場をはさんでコマ劇場の対角にある新宿TOKYU MILANO、つまり他にもいくつも未解決課題はあったが、東急レクリエーションの対応がひとつのネックになっていたのでは、と考えざるを得ない。東宝は、まさに東急レクリエーションに対して痺れを切らせていたのだ、と。

株式会社東急レクリエーションは不動産事業と映画興行・劇場運営を基軸とした二部上場企業。現在代表取締役は東急電鉄から来た佐藤仁氏。年間売り上げは約230億、うち映画興行関係の売上は約60億くらいか。社員数は約200名。新宿TOKYU MILANOの再開発話が持ち上がったころの2000年前後の体制は代表取締役に佐藤進氏(現相談役)、」そして会長職には日本映画興行界のドンと言われ東映の社長なども兼ねていた岡田茂氏(現取締役、親会社にあたる東急電鉄においても役員の席を保持している)、当時のこの企業の営業軸となる場所は二つあって、渋谷にあった渋谷東急文化会館と新宿のミラノ。うち、渋谷東急文化会館は東急電鉄の所有地に賃貸で借りていたのだが、新宿のミラノのほうは自社所有地だった。すでにこのころ、この渋谷東急文化会館と新宿のミラノを両方建て替えるという話は出てきていて、当然地権者である東急電鉄は渋谷のほうの再開発に注力、一方で東急レクリエーションは新宿のミラノのほうの自力での再開発を目指す方向性にあった。

東急レクリエーションは、この時期を前後して、一時期一部上場を目指していたことがある。新宿での自力での再開発に必要な資金調達をしやすくするひとつの方法であったと思われ、当時これに向かって社員は一丸となって努力をしていたように見えていた。だが、実はこれがのちに頓挫するのであるが、原因はどういう点でとなると、明確ではないが言われている話としては、岡田茂氏の存在にあったようだ。当時会長職にあった岡田茂氏は、ディズニーランドを経営するオリエンタルランドが産業廃棄物処理に絡んで指定暴力団の関与する右翼団体との関係が週刊誌等でリークされ、またその右翼団体幹部のグループ企業への多額の出資・役員名に岡田氏の名前が報道された経緯がある。ご時世としてとくに企業には過度とも思えるコンプライアンス遵守ということが声高に唱えられる時代の入り口、こういった報道が一つの障害になった可能性はあったかもしれない。やや思わぬ時代の流れの犠牲感はあったが、当時の東急レクリエーションの社員の落胆ぶりは強く、やがてこの頃から東急レクリエーションはそれまでのプロパー運営から親会社である東急電鉄に近づく運営へと変化していったかに見えていた。

東急電鉄は渋谷地域の駅を含む再開発着手の中の一つの種地として渋谷東急文化会館を持っていたわけだが、地権者である東急電鉄にしてみれば無用なコストを抑えたいという意向が働くことは十分考えられる。そこで、ここを全館借りしている東急レクリエーションを言い方は悪いがいかに穏便に追い出すかということが一つの命題であった。つまり、東急電鉄から見れば、同じグループ会社とはいえ思惑の相反する関係にあった東急レクリエーションに対し一定の距離を置くというスタンスが取られていたというのは観測できる。よって東急レクリエーションはその後見かけ上は電鉄出身者による執行体制(現在社長以下二名の専務は電鉄出身者)へと変化しつつも電鉄側からみれば、「自前でなんとかやれ」的な距離にあった。東急電鉄という企業の状況は、現在電鉄事業そのものの推移は決して悪くないものの、グループ内の不良資産を吸収していく流れがあって、全体では決して盤石とは言えない面もある。よって、当時グループ内において、それでも微に細にとはいえ利益をなんとか出し続けている東急レクリエーションをそれほど問題視はしていなかったようで、むしろ「グループ内では優良児だった」と言われるように東急レクリエーションへの電鉄からの干渉はさほど緊急ではないと判断していたようだ。ここに若干、東急レクリエーションと東急電鉄の間の温度差が見え隠れする。

おそらくこの時の判断を誤った。これは自戒をこめてであるが。

歌舞伎町ルネッサンス推進協議会においても委員としてたびたび発言をしてきている佐藤進氏(当時東急レクリエーション代表取締役会長、現相談役)であるが、個人的にも付き合いのあったこの人との間で「歌舞伎町はボクの人生です。よろしく頼む。」とまで言われたその言葉にある意味安心しすぎていたのかもしれない。兎にも角にも極めてリーダーシップの強かったカリスマ的経営者だっただけに、いろいろ課題は多い、されど佐藤進氏は自信たっぷりに「素晴らしいものを作ってみせる」と言い続けてきた、まぁこの人の言葉は信じられそう、、東急レクリエーションとしては自力なり他者の力を借りるなりしてもなんとか東宝との両輪として歌舞伎町の再開発を牽引し仕上げる力はあるんじゃないかと。

昨年3月、東急レクリエーションは大幅な人事異動を行った。それまで極めて強いリーダーシップでこの企業を引っ張ってきた佐藤進氏(当時代表取締役会長)が取締役相談役に、相談役だった岡田茂氏は平の取締役へ、そして電鉄から来て常務職についていた二氏を専務に、その以前に社長の就任していた佐藤仁氏(東急電鉄出身)と合わせて事実上トップ幹部はすべて電鉄出身者という体制へと変革した。どういった意思によってこれが成されたのかはともかく、外形的に見て、いかにも東急電鉄の支援を受け入れ得る体制づくりであり、その「障害」となりうる箇所の修正を行った、そういった人事であった。四葉会再開発の両軸の東宝とあわせ、東急レクリエーションもいよいよ東急電鉄の支援等を得て動き出すのだろう、そう誰もが予想していた。事実、2008年初頭の段階ではYSP企画はあと一歩で合意というところまで近づいていると聞いていた。だが、これが蓋を開けてみればこの予想ものちに崩れることになる。すなわち、以前書いたとおりだが、昨年7月東急電鉄のレクリエーションへの支援は当面先送りされるという事態に及んだ。

前後して、東宝による単独再開発の報道発表、となると東急レクリエーションが東宝に対してリアクションを起こしようにも金縛りにあったかのごとく膠着せざるを得なくなる事態は容易に想像できる。さて、自力での資金調達でもできるのであればまだしも、もろもろの事情でむしろ企業収益性は圧迫される時流に四葉会各社もそれぞれ低空飛行を余儀なくされ、加えて新宿には、2007年2月に東宝と東映の出資によるシネコン「バルト9」が、昨年7月には新宿三丁目に松竹の新宿ピカデリーがそれぞれ完成、最先端のシネコンが続々完成し、新宿全域での映画観客動員は都内随一の大幅(約30%)増加しているものの、歌舞伎町の中にあるシネシティ周辺の劇場動員力は事実上激減。他方、シネコン事業も一時期のブームのあおりで条件面、特に家賃等々の高騰による運営コストの上昇などもあって、業界全体でも縮小傾向へと向かっている。そういった向かい風の強い状況下において、老朽化したシネシティの映画館がこのままで、巻き返しをできることは非常に困難なのは明らか。昨年12月で閉館した新宿コマ劇場、そして東宝の歌舞伎町における一番館だったプラザ劇場も閉館、シネシティそのものの動員力はもはや無いに等しい。

改めて、東宝の再開発は動くにせよ、よもや新宿TOKYU MILANO等をこのまま漫然と放置することが歌舞伎町の地域経済にとって良いわけはない。「早くなんとかしろよ!」という声を街のあちこちで聞かされる。しかし、一方で、これは意図をしてたわけでないにせよ、2008年後半の急激な金融恐慌と合わせてはじけた不動産ファンド等の崩壊を思えば、ある意味動かなくてよかったのかもしれない。もちろん、動いてもらわなくては困る。それもなるべく早く。しかしながら、動き始めてから資金調達でショートして頓挫なんてことが起きかねなかったことを思えば、明らかにマシという考え方もできる。東宝部分だけでも400億からの資金を要する開発、それが拡大してミラノ側や四葉会全体ともなれば1,000億を超えてくる開発規模。当然資金調達のためにはあらゆる手段が取られるだろうし、最近の不動産ファンドの崩壊を思うと、むしろ今、これからで良かったのかもしれない。

振り返って思うに、頓挫は頓挫ではなく、むしろ予期せぬ事故を回避できた、いわばこれからが好機ととらえるすべはないか・・・・。

そもそも、共同再開発のメリットは、文化性と経済性を分散することが可能になる点にある。文化性を追えばどうしてもリターンは厳しくなる。一方で、経済性を追えば、企業の看板を傷つけかねない。両者のバランスを上手にとってきたからこそこれまでの東急グループなり東宝という企業が成立してきた要因である。歌舞伎町の四葉会再開発にしても、一般論として劇場だのエンターティメントを主軸にした再生がこれまで言われてきたが、現実にはそういった業務は利益を生みにくく、また土地活用の経済性からいっても非常に効率が悪い。つまり、仮に東宝や東急がドリームメーカーとしての企業カラーを重要視するのであれば、それを歌舞伎町の中で完結するためには、“文化”と対軸になるかもしれない、あくまで利益を追求できるスペースもなくては不可能なわけだ。単一企業による開発では困難なこの両面を分散して配置するにはやはり共同再開発しかないのである。

動いても動かなくても、東宝の単独再開発はあるだろうし、ゆっくりと見守れれば、東急レクリエーションにしてもいつかは重い腰を動かすかもしれない。いや、劇場運営が厳しいのは東急レクリエーションだけではない。第一東亜会館は、ジョイシネマは・・・あるいは思考停止した企業ならば逆に売り物には普通出ないはずのものが部分的に売却という動きすらありうる。う~ん、、、それはそれでやむを得ないにしても、その前にやるべきことはある。

だからこそ、個人的に再チャレンジを仕掛けたとしてもそうは害はないだろう。ならばダメもとで、今一度何かしらアクションを起こしてみようと思い立ったわけだ。あくまで個人的な活動ではあるが、公私にわたる人脈をフルに活かしてできることがないかと。

◇◇◇歌舞伎町中央広場構想

イメージはこうである。まず、新宿コマ劇場と東宝会館跡地2,000坪の地上部分は公園、または広場(あるいは広場的な場所)とする。水場や緑があり、野外音楽堂的な人が集まれる場所に、そして中央にはたとえばガラスのピラミッドのオブジェがあって、そこから入口があって地下にはルーブル美術館のような空間が広がる。B1・B2は美術館や公共のアート系劇場など、そして一部飲食やテーマレストランなどが存在する。理想を言えば、さらに地下には歌舞伎町全域のごみ処理施設や熱源、地域冷熱、深夜電力の蓄電施設といったプラントを置く。地上には日のあたる地上でしかできない空間を、商業・経済活動は地下でというものだ。用地そのものにある容積は900%以上あるわけで、民有地である故に経済性が担保できなければ当然ありえない話であるので、地下利用をしてもあまる容積を新宿TOKYU MILANO側に移譲、つまり新宿TOKYU MILANO跡地には30~40F建ての高層ビルが建つ。そこには上層階にホテル、中層はオフィス、そして下層は劇場や映画館施設など。西武駅前通りを観光バスの導線とし、駐車場もそちら側に設置する。コマ劇場跡地の地上・地下部分へのアクセスは新宿駅・新宿三丁目駅側からのことを想定するとして、セントラルロードを第一候補として大幅に改修を行う。地権者(区と周辺ビルオーナー)の合意が得られるのならば掘ってもいいだろう。つまり、サブナードから歌舞伎町の中心まで地上にも地下にも導線を再整備する。

これを可能とするためには、東宝とシネシティ広場・セントラルロードなど区道を持つ新宿区、そして東急、サブナードとの協定を行えるように持っていかなくてはならない。大事なのは“容積移譲”という発想、もちろん事業スキームも複雑だし、投資額も大きくなる。あえてもう一声、サウナグリーンプラザ(安達事業グループ)、西武鉄道まで巻き込めれば線路上に人工地盤を築いてそこを活用とまで言ってしまい、これをマストと捉えてしまうと現実味が遠のく。だが、中心にはなるべく大きな文化的且つ広場的なものを置き、その周辺に経済性を自由に追求できるスキームを組み立てる。街にとっては本来この姿がおそらく一番望ましいのではないか。

歌舞伎町という街を表現するときに、最も明快な答えは「コントロール不能な街」であるということにある。それはそもそも、規制や法秩序下にあってそれをよしとしない人たちが集まる、言い換えればもちろん自由な街(自己責任の街ともいえる)であるわけだが、結局はコントロールは不可能。したがって、この街のまちづくりにおける肝は何かといえば「バランス」に尽きる。どういうことかというと、たとえば自分らが商店街と一緒にやっている迷惑行為排除パトロールがまさにそれで、要は客引きやスカウトなどを一切なくすことは不可能であるという視点に立ち、であればその対立軸に自らがなって平衡状態を築くという手法である。法や警察が機能しにくい街だからこその方法で、特に予期せぬことが起こりやすい路上において、自らが“客引き排除”という極端なカウンターパートを作り、客引き側との平衡状態を作ることで予期しうる空間へと変容させるものである。まちづくりの肝はこうした対処療法の積み重ねであって、それを細くとも長く継続させることにある。

街のハードも同様で、歌舞伎町のような繁華な街においては、その繁華さゆえにさも「歌舞伎町的」なものをアイディアしやすい。事実、東宝に出入りする某ディベロッパーの提示したものはそんなようなものだった。本来は街全体のバランスを考えると、特に中心にはなるべく文化的なもの、あるいは変化が少ないものが置かれるべきである。それによって変化の目まぐるしい繁華街の絶対値に一定の歯止め感を与え、あるいは双方に引き立て役となりうると考える。最も変化の少ないものとは「空虚」であって、つまり中心にはなるべく「空虚」なもの、空虚の典型例として、すなわち極論で言うと公園や広場がふさわしいということになる。歌舞伎町の半世紀にわたって繁栄を支えてきたコマ劇場と周辺の映画館の役割は終わった。そして、これからの半世紀、いかに街の中心としての役割を担えるものを築けるか、今、それが試されている。それがどうなるかによって、向こう半世紀の歌舞伎町の運命が決まるといっても過言ではない。だからこそ、ここに全力で干渉する意味がある。

ただ、現実にこの歌舞伎町の中心は公共の場所ではなく民有地である。したがって、経済性が担保されなくては到底実現できない。地権者なら当然ながら5%程度あるいはそれ以上の利益を求める。それを可能にするための知恵を絞ろうということで、街全体の未来がかかっているからこそ東急なり東宝なりにそれを求めていくことに空気を読んでためらう必要はないと思っている。また、これを目指す以上、東宝の単独再開発で事足りるわけもなく、容積移譲などによる経済性の担保の必要性とそれを可能にする区行政の協力、意外にも東急と東宝はシネシティ広場やヒューマックス、東亜興業を挟んで離れてある故に、単純に個別開発のパズルの組み合わせという視点が強かったようで、これを修正し、地権者は地権者としての権益を保持しつつ、構造物に対しては開発への出資による信託的な共同開発と組みかえる。「このプランならば地域再生の社会的意義もあって利益も保持できる」という絵が描ければ、今からこそ投資を検討してくれる企業はありうる。

一度頓挫したとはいえ東宝の動きにリアクションを起こせなかった四葉会、あるいはそのキャストを一部入れ替えてでも再度四葉会とならずとも部分的にでも合意形成が可能かどうかを当たりなおしてみたいと思った。歌舞伎町のみならず新宿の経済活動における重要な拠点に決して売り物としては出ない種地がある。この場所をどうするのか?体力の無い企業が、仮にそこに思い入れがあったとしても何もできずにそこに居座り続けるとしたら、これが地域経済に及ぼす害は必ずある。しかし、投資が誘導できるプランならば、決断によってはだ、仮にキャッシュが無くても、地権者として土地だけを提供するという事業スキームだってありえないわけではない。こういったことはまちづくりにおいて、時に情的にも常に難しい課題をつきつけるのだが、関係各社、あるいは投資企業はここを考えてもらえたらと、そこが第一の突破口かと。


 

先ごろ書いたように、新宿コマ劇場と新宿東宝会館の解体工事期間は約16か月、テナント問題も終わったわけではないので、おおむね2年、この期間が重要だと考えている。ここに出来上がるであろう向こう半世紀の歌舞伎町の核となる施設のありように干渉できるのはこの2年の範囲内しかない。これに対するアプローチは様々なチャンネルからこれからも行われるだろうが、自分は自分なりに公私にわたる人脈なりもフルに活かしてここに干渉していくつもりだ。

今年の自分の命題の一つがこれで、さらにもう一つの命題は正月のブログにも書いたが「地下鉄24時間稼働」である。ここで少しこの「地下鉄24時間稼働」について書いておこうと思う。

◇◇◇地下鉄24時間稼働を目指して

「24時間」という言葉に、これまで自分が提唱してきた「歌舞伎町24時間特区」(営業時間の規制のない経済特区構想)を連想される方もいると思うが、まずその「歌舞伎町24時間特区」については、正直なかなか地域のコンセンサスが築けなくて厳しい状況にあることは前にも触れた。歌舞伎町24時間特区実現へのプロセスとして地域のコンセンサスと署名活動という流れがあるのだが、署名はなんとかなるとしても地域になかなか理解が得られない。歌舞伎町の地域経済のポテンシャルを支えているのは風俗・社交飲食業であるということから、この業界にカンフルを打つことで経済力を増強し、民間による街づくりを加速させる、まぁだいたいそんな思惑だったわけだが、どうしても風俗・社交飲食業への理解が足りないという面と、業界そのものに街全体のことを考えようという習慣がないというか無理があるようだ。そもそも、営業時間の規制を受けていないカラオケやバー(深夜種類提供店)などもいつ規制がかかるかもしれぬ状況の中で、24時間特区を目指すなり勝ち取ることで規制に対する一定の楔にもなるはずと思っていたのだが、その点を説明が足りないのかなかなか合意には至っていない。どうしても各論で単一業種ごとの議論になりやすく、個人的にはテンションも下がっていた。

そこで、何というか、あまり議論を必要としない、はっきり言えば歌舞伎町のコンセンサスなど無用で、しかしながらこの街の地域経済にプラスになる施策として考えたのが「地下鉄24時間稼働」である。歌舞伎町に限らず繁華街という場所は、そもそも深夜の社会・経済活動のある意味独占的な受け皿であって、その阻害要因は逆にいえば深夜の交通機能の現状にある。発想は美しくはないが、繁華街の活性化となれば深夜の交通インフラの整備というのは当然有効であろう。そして、ふと思ったのだが、電車なり地下鉄はどうして動かないんだ?と単純に感じたのだが、丁度仲間内に某政党の選挙公約づくりに携わっているものがいて彼とのブリーフィングの中で、これって「政策にならないかな?」という自分のリクエストが動き始めたわけだ。

もちろん、大義名分も割と簡単に立てられる。深夜の雇用拡大、内需拡大等々、今のご時世に必要な要素が並べたてられる。しかし、未だ電車は深夜動いていない。なぜ?国交省の職員曰く、「経済性とコストが合わないから」「メンテナンスの問題」など、さほど議論した様子もなく・・ニューヨークの地下鉄は24時間動いているということだが、むこうの地下鉄は複線構造になっていることで、稼働しながらメンテナンスが可能だが、一方日本の地下鉄は単線構造のためにメンテナンスは電車を止めてやらざるを得ないとか。なるほど、安全基準の厳しい日本ではそうせざるを得なかったのかもしれない。

そこで、鉄道会社の関係者に話を聞いてみると、だいぶ違ったニュアンスの返答が来た。「日本人と言うのはきっちりした民族なんで、たとえば3時間でメンテナンスをやれと言えばやるし、半日かけろと言えば半日かける。だが、いずれそういう話になることを鉄道会社も想定はしてて、粛々とやれることはやってるんですよ。」と。意外にも地下鉄24時間稼働はさほど難しいことではないというニュアンスだった。ただ逆に「やれと言われればやらざるを得ないので、企業体力に合わせて黙って準備を進めている。」とか。

環境負荷はどうなのか?

もちろん深夜電力を使うわけだから、環境負荷は絶対的に無いに等しい。というかむしろプラスか。一般的に、深夜電力がなぜ安いのかといえば、要は電気は貯めることができない(一部蓄電の開発は進んでいるが)ために、発電力は電力需要のピーク時を想定して行われる。特に原子力は調整発電ができないために、常に需要に関係なく大量の発電を行っている。調整弁は火力や水力が担っているわけだが、特に需要の下がる深夜はむしろ電力消費は必要で、たとえば余剰電力の消費のために揚水式発電なんてのもある。要は、余剰電力によってダムの水をくみ上げ昼間の発電に使う。言ってみれば消費と発電を自作自演で行う施設のようなもの。電力は消費するだけ発電できるものなので、深夜電力の使用は結局環境負荷を下げる可能性はある。理想を言えば、昼間の消費電力を抑え、夜間電力の使用量を底上げするのが最も環境負荷が軽くなる。実際に、大量の電力を消費する大型の工場や鉄道会社はこの夜間電力の活用が大きな命題だということで、たとえばバスをすべて電気にし、その電力を深夜電力を蓄電して活用する方法なども考えられている。つまり、いずれにせよ、地下鉄の深夜稼働は環境負荷はかなり小さいということは容易に想定できる。

まずは、試験稼働からスタートしてはどうかなと考えている。たとえば、週末だけとか1時間に一本とか、あるいは大江戸線と副都心線だけ走らせてみるとか。たぶんこのアイディアの現実的な落とし所を探すとなると、おそらくそういった形から始まることになるのだろう。当面社会実験として、みたいな。問題は、あくまでネットワークであるということである。つまり、ネットワークというものはそのスケールメリットによってはじめて機能し始めるという点。ごく一部だけを動かしたとしても全体の真価を図りにくいことにある。また、あたりまえ感というか、深夜電車が走っていることの感覚的な定着には少々時間がかかるだろう。故に、どうしても最初に手を挙げて動かし始めるにはやや経済性の観点からいって企業への負荷が強くなる懸念はある。旅客だけの視点で無計画に走らせたら、1000人運べる鉄道に10人しか乗っていない、それじゃ無理みたいなことになりかねない。鉄道には物流としての機能も可能なのだから。

したがって、もう少し大きな未来に有効な資産となりうるビジョン、30年とか50年というスパンを見てコンセプトを考えることも必要。たとえば、地下鉄の複線化を進める、あるいは地上にある鉄道の、たとえば山手線の地下化、または上下化とでもいうか、昼間は地上を、夜は地下を走らせるような立体的な複線化を私鉄も含め進めるとか。これも極論であるが、地上に走っている鉄道をすべて地下化した場合、いったいどれだけの土地が有効活用できるのかとか。単純に山手線だけ地下化したとしてもその経済効果はおそらく計り知れない。そういったインフラ整備と稼働時間の24時間化、加えて大量輸送力のある鉄道に見合わない部分においては深夜電力を活用したバス輸送ネットワークの再構築など合わせて政策化していくことが求められる。財政出動も大きいが、雇用創出や内需拡大が最重要課題になっているこの国では今こそ非常に有効な施策になると思われるのだが。

今年は選挙イヤーである。7月に都議選、前後して衆院選もある。ざっと書いたが、こういったことがどこかの政党のマニフェストに絡んでくるようなことになったら、面白いことになるかもしれない。

地下鉄の24時間稼働による、繁華街の受ける恩恵は大きい。たとえば、営業時間の規制がかかる風俗産業をどうこうしなくても、営業時間規制のない飲食や物販、エンターティンメント産業がまず恩恵を受けることで、歌舞伎町のようなどうしても風俗色の強い街においてはむしろバリエーションを生む可能性が開けてくる。結果として、街の魅力であるその多面性のポテンシャルアップにつながり、24時間特区構想などといったことをしなくても結果的に多様性が個々の業態の引き立て役につながって地域経済は活性化される。歌舞伎町のまちづくりにおいて本来目指してきた姿へと無理なく進める加速器になる可能性は高い。

個人的には前述のコマ劇・東宝会館跡地の行方への干渉とともに、今こういったことをいろんなチャンネルを通じて仕掛け中。


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by TS (2009-02-24 00:32) 

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